経済学で「冷静な頭脳と温かい心( cool head but warm heart )」という有名な言葉がある。ケンブリッジ大学のマーシャル教授が19世紀に述べた言葉である。この名言は、経済学だけでなく人間社会に関わるさまざまな学問の領域で、その後何度も引用されるようになった。
冷静な思考と暖かい心。メディアージュクリニックの富島先生にお話を伺って、まさにこの言葉が思い起こされた。メディアージュの経営に関わるようになった当初は課題も多かったが、どのようにその厳しい状況を乗り越えたのか。そして、軌道に乗った経営体制がこれから必要としている医師像はどのようなものなのか。
──メディアージュクリニックは開院から18年ということですが、お客様層や人気の施術などに変化はありますか?
富島理事長
メディアージュは、もとはプラセンタ専門のクリニックでした。プラセンタだけでなく美容医療も始めるということで青山に移転し、その後、美容医療だけでなくエステのメニューも入れたのですが、最終的には経営がうまく行かなくなり、リスタートの1年半後くらいに私が買収することになったという経緯です。開院当初のお客様層や施術については詳しくは知りません。私が来た当時のお客様層は、「安いから」という理由でいらっしゃる方がメインで、経営が行き詰まった状況でした。
経営者になった私はクリニックの現状を見て、一旦、仕切り直しをしなければと思いました。前の経営体制からそのまま引き受けたスタッフには、「仕事をしないなら辞めてもいい」と伝え、私は「あとから来た人間」になりますが、仕事をしないスタッフに給料を払い続ける余裕はなかったですし、実際、青山は経費もかかる場所なので、辞めてくれた方が毎月の赤字も少なくなるような状況でした。辞めたい人は辞めてくれた方がいい、と本当に思っていましたね。実際、ドクターも看護師も、好きなところで働ける職業の一つと思っていますので。
一度、仕切り直しのようなプロセスを作らないと、いきなり全員解雇というわけにはいかないですし、その中で残ってくれるスタッフを期待したんです。
お客様に関しても、当時のお客様全員が来なくなってもて構わない、という気持ちでスタートしました。しかも、私が始めてから最初の1年間はキャンペーンなどの販促施策を一切行わず、メニューを調整しながら全てを組み直しました。
そのような中でも、残ってくれるお客様はいらっしゃいましたし、「しっかり働こう」と思って残ってくれたスタッフもいました。結果、7割くらいのスタッフは残ってくれましたね。メディアージュというクリニック名は残したので、そこに思い入れがあるスタッフもいたのだと思います。
──厳しい状況の中、仕切り直しを進めていかなければならなかったのですね。実際、どのように進められたのですか。
富島理事長
私が来たときは、エンダモロジーやイオン導入など、エステサロンでやっているようなメニューがあり、いろいろ混在していました。全体的に美容皮膚科らしくなくて「何だこれは?」と思いました。ほかにも、サプリ好きなドクターがお客様にサプリばかり勧めていたし、このクリニックを買ったのは間違いだったかもしれない、というのが私の正直な気持ちでしたね。
当時、私は大阪から東京に出て来たばかりで、当然知り合いはいない、人脈もゼロの状態です。とりあえず、今自分ができることをゼロからやる、という気持ちで始めました。
こっちを見ようとしてくれる患者さん、こっちを見ようとしてくれるスタッフに対して、なんであれ真剣に向き合うしかないなと思ったんです。そして、メニューを再構成しました。それがこのクリニックでの私のスタートでした。
──大阪では美容外科をなさっていましたが、青山では外科をなさるお気持ちはなかったのですか。
富島理事長
外科は継続してやってないと腕が落ちるものです。ブランクがあると、また訓練から始めないといけません。ここでは経営者としての仕事をしなければならないので、手が回らないし難しいと判断しました。外科を始めたとしても、訓練の途中で患者さんに対応するのも申し訳ないと思いましたし、集客についても、美容外科は難しいですから。
──新しい体制で、しかもキャンペーンを一切行わないで集客するのは難しいのではないでしょうか。
富島理事長
キャンペーンがなければ来ないというのは本当のお客様ではないと思ったので、そこを判断したかったというのもありますね。「安いから」ということだけで来ているお客様、そしてそういうお客様と癒着していくスタッフ、私が来る前はそんな形があったようで、もちろん、クリニックは、当然大赤字でした。
当初、お客様はだいぶ減りましたが、それでも私が診察室で向きあった患者さんに「富島先生を信じる」と言ってもらえることもありました。そういう方には、料金が安いとか高いとかではないと思っていただけたのだと思います。
そういうお客様に、ひとりひとり向き合うことから始め、そして、お客様に向き合いながら、お客様が何を求めて来院なさるのかを分析して進めてきました。私なりの方法で、青山という土地柄の市場調査をしながら、メディアージュクリニックの方向性とメニューを考えていました。
集客では、経営者の集まりで名刺を配ったり、女性だけの会で講演を行ったり、診療が終わった後にそういうこともしていました。雑誌の編集者を紹介してもらったこともあります。
──競合分析はなさいましたか。
富島理事長
競合は関係ないですね。競合に対抗しようと思うと、結果的に相手に合わせてしまうのではないでしょうか。自分たちが強ければ、自然にお客様は集まると思っているので、あまり競合に関しては考えませんでした。
──脳神経外科医にいるときから経営志向だったのですか。
富島理事長
経営者になりたいという気持ちは、いっさい無かったです。もともと私は、アメリカでオペレーターになりたいと思っていたのです。患者さん対応は、どちらかというと好きではなく、外来で患者さんと向き合うよりは、手術が面白かったのです。医師を目指す前は、本当は建築をやりたかったです。人と向き合うよりも創作に向き合いたい、建築士になりたいと思っていました。
医師になり、難しそうでやりがいがありそうだということで、脳外科を選びました。細かな作業が得意な方ではあったので、オペがしたくて私は医者になった、と言ってもいいくらいです。患者を診たくて脳外科医になったのではない、それはドクターとしては失格ですよね。
いろいろな事情で脳外科を辞めるという判断をしたとき、形成外科の先輩に相談すると美容外科を勧めてくれて、それが美容外科の道に入るきっかけでした。
そこでは脳外科との大きな違いを勉強させてもらいました。それは、医者である自分にとっての最高の手術と患者さんにとっての最高の手術は違うということ。
それまでは、倒れて寝たきりの患者さんの脳を手術してきたわけです。だから、手術というのは、責任も含めて医師としての自分の評価が大きかった。しかし、美容外科では、お客様に評価されないと意味が無いのです。これは大きなカルチャーショックでしたね。そこから「お客様に認められないと、自分の手術が成立しないんだ」と思うようになりました。
──人とのコミュニケーションが好きではないとおっしゃいましたが、美容医療では、お客様の「なりたい姿」を理解するのは難しかったのではありませんか。
富島理事長
私が技術的な方向からモノを考えるのは、美容医療に来てからも変わりません。
たとえば、二重形成手術を希望するお客様の話ですが、私の美的センスとお客様が求める二重とズレることがあるんですね。なぜ、そこにズレができるのか。自分なりに考えて、その統計をとりました。
患者さんはその部分だけしか見ていないことが多いのです。つまり、眼が二重にさえなったら美人になる、と思いこんでいらっしゃるケースが多い。私が診ると、美人になるためには、二重よりまず鼻を治した方がいいと判断することがあります。
このズレは面白いと思いました。美容外科にいらっしゃる方は、そういう方が多いんです。「私はどこを直したらキレイになりますか」と言う人は少数で、「ここを直したら自分は良くなる」と思い込まれて来る方が多いのです。
このような場合は段階を踏んで、まずは希望どおりにしたら、次はどこを直したらキレイになるのか、それを提案すると信頼して受け入れてくれるようになるケースがあります。もちろん、そうならない場合もあります。信頼の関係を築くまでに、2ステップかかるのか1ステップで終わるのか、統計を取りました。
また、美容外科に来ているのに実は外科手術をしたくない、というお客様も多くなってきていました。理想はこうなりたいけれど、実際はなれないのは理解されていて、でもどうにか近づきたい、と思っている方が多いということが少しずつわかってきました。
そういうお客様の希望の8割を叶えるのか6割で良いのか、自分の中で統計をとってデータを作っていきました。その結果、完成形をどこに持っていけばいいのかを、知ることができました。
お客様はこうおっしゃっているけど、大体この幅に入れてあげたら満足していただける。お客様の言葉は理想である可能性、そして言ってるとおりにしても満足してもらえないかもしれない。言葉のその奥にある患者さんが満足してくれる完成形の「幅」みたいなものが分かりました。
──保険診療から転科すると、美容医療のそういうところが難しいのではないかと思いますが、面接にいらっしゃる医師のどこをご覧になるのですか。
富島理事長
自分がプロだという意識があるかないかを見ます。今のドクターは、美容に限らずですが、残念ながらプロ意識を持った方が少ないのではないでしょうか。プロ意識を持っていないと、「医師免許が必要な職業」をしているだけになってしまいます。
──プロ意識がある医師とは、どんな医師ですか。
富島理事長
責任の違いでしょうか。医師としてのプライドと責任がリンクしている人なのか、医師というプライドだけで責任はとりたくない人なのか、です。美容外科の先生は、手術の責任がリンクしているので比較的、プロ意識があると思います。手術の結果は言い訳ができません。そこは、美容皮膚科に比べて、より明確ですね。
美容皮膚科は、お客さまは「いい機械(美容機器)だったらやってみたい」といらっしゃいます。「◯◯先生だからやってみたい」ではないことが多いのではないでしょうか。
しかし、メディアージュは、医師の技術で差をつけたいと思っています。世間の平均以上の結果を出し、リスクに対するしっかりとした対応をしています。患者さんと向き合える医師とスタッフがいるクリニックです。
手術のように劇的に変わるところは結果重視、医師の腕だと思いますが、リピーターとして通う美容クリニックは、人の心を感じるところではないと続かないと思うのです。美容皮膚科はスキンケアなので、リピーターあっての経営です。スタッフには常日頃、「医療はサービス業だ」と言っています。医者や看護師が無駄なプライドを持っていたらダメ、ミシュラン最高クラスのサービスを目指して欲しいです。
──アフターコロナの美容医療は、どのようになるとお考えですか。
富島理事長
接客を大事にしていけば、美容医療はより強くなると思います。近づく人と遠ざかる人が明確に分かれてくるのではないのでしょうか。直接会うほうがいい、という領域がもっと重要になってきます。アフターコロナで直接会う価値が多くの人に認識されたので、そこを最大化するべきです。美容医療はリモートでやるわけにいかない、だからこそ、今まで以上に、接客の質を高めなければいけないのです。
「来て良かった」「直接会って良かった」と思える空間にできるかどうか、ですね。
──美容医療に転科を考えるとき、医局での経験はプラスになりますか。
富島理事長
医局という意味では、ゼロではないでしょうか。美容医療に来る場合は、最低限、注射は出来て欲しいです。紹介会社からは美容皮膚科ということで皮膚科の先生を紹介されることが多いのですが、2〜3年目の先生はお会いすることもあります。
皮膚科の先生を積極的に採らない理由は、美容皮膚科を皮膚科の延長と思い、真剣にやってくださる方が少ないから。また、皮膚科専門医であるプライドがじゃまになることが多いのです。美容クリニックにいらっしゃるお客様にとって、そのようなプライドは必要ありません。
お客様のおかげで仕事ができているのです。お客様は何を目的にいらっしゃるのか。皮膚科の先生は、シミの診断、ニキビの診断、いろいろ病名のように言われるのですが、患者さんが求めているのは診断よりも解決方法だと思います。それを提示して差し上げるのが、メディアージュクリニックです。
皮膚科以外の先生は他科からの転職ということもあり、謙虚に取り組もうとなさいます。そのため、皮膚科以外の先生を採用することが多くなりました。
面接では人物を見ています。本気で美容医療をやろうと思われているか、そこが大事で、それがあれば、実は、若くても年齢が高くても構いません。
──入職後の研修について伺わせてください。
富島理事長
レーザーを含めた光治療を行うために、光線力学から勉強しましょうとお話します。お客様から詳しく質問された時のためにも、トラブル対応のためにも必要なことだと思っています。そして、皮膚、特に外傷学についても学んでいただきます。機器メーカーさんのマニュアルどおりにやるだけだったらだめだ、と思っています。
新しいことを学ぶのは大変だと思いますが、やる気を持って私たちの仲間になって頑張りたいと思われる方は、習得に時間がかかっても構わないです。
そして、大事なことはお客様が一番喜ぶのは「技術より心」ということを分かっていただきたい。患者さんと向き合って一生懸命やってくれる医師であれば、それが一番なのです。
善くも悪くも他の国家資格と違って、医師免許はそれだけで生きていけるので、人間が未熟になりやすいと感じています。人間は簡単には変わりませんが、プライドよりも人の心を大事にできること、それが必要な資質です。
──今後のご計画についてお聞かせください。
富島理事長
実は新しいコンセプトのクリニックを作ろうと考えています。メディアージュとはお客様層、メニュー、集客方法が異なるクリニックになると思います。
人の心がどのように動くのか、人の心をどうやってつかめるか、まだまだ興味がありますね。
富島先生の取材が終わったあと、とてつもない「意外さ」と「熱い想い」が印象に残った。
手術がやりたくて脳外科医になったこと、患者対応は好きではなかったなどという過去のお話を聞いて、「クールな外科医」というイメージを、まず始めに感じた。
しかし、インタビューの後半に、メディアージュクリニックで働く医師、スタッフに対して「心が大事」「やる気があれば、習得が遅くてもOK 」というハートフルな富島先生の一面を拝見した。
抜本的な立て直しから始まったクリニック経営を通して富島先生がお持ちになった、心の中の静かな熱い想いを感じることができたインタビューとなった。
世界一多くのありがとうをもらい
世界一多くのありがとうを贈るクリニックに
2003年の開院以来、メディアージュクリニックが一番大切にしているのが、おもてなしの心、ホスピタリティ。ご来院いただいた患者様に、日常生活の疲れやストレスを癒し、リラックスして気持ちよく過ごしていただけるよう、笑顔と真心を持って取り組まれていらっしゃいます。
この数年、美容医療業界は医師の採用と離職防止に努め、その結果、応募者の多い人気エリアは徐々に医師が充足しつつあり、採用基準も高くなってきています。10人面接して1~2人しか採用しない大手クリニックも出てきています。
採用になった医師は何が評価されたのか、不採用になってしまった医師は何が足りなかったのか。
それは経歴などではなく、美容クリニックの経営理念を理解しているか、患者さんをお客様として接することができるか、美容医療を志す意思をしっかり持っているか、などです。
ドクターコネクトは業界実績18年、数多くの医師転職をサポートし採用面接に同席してきました。ただ求人をご提案するのではなく、「採用面接で合格する」ことを重要課題として取り組んでおります。ご入職後のアフターフォローもしっかり行い、PDCAサイクルを繰り返すことで得た長年のノウハウがございます。
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