2024年4月から実施される、「医師の働き方改革」。医学生や研修医など、若手医師にこの改革の趣旨や関連法の知識など周知することが重要、と考えている厚労省は2020年から医学部や医師の労働法教育支援対策を行ってきました。
さて、いよいよ2024年は医師にとって大きな転換点となります。知っておきたい情報とは?
最高裁判所が公表している「医事関係訴訟に関する統計」によると、新規の事件数はここ数年、増加傾向とあります。医師は保険診療、自由診療に関係なく、医療訴訟のリスクを避けなければいけません。医療行為と法律には密接な関係があり、もちろん医学部でも医療に関する法律や医療訴訟について学びます。
しかし、法的なトラブルに関して言うと医師は訴えられる側になるだけではありません。勤務医やその家族が、雇用主である病院を訴えるケースも起きています。長時間労働による過労死やうつに追い込まれた場合などはその一つの例でしょう。
医師は医師国家試験に合格した者だけが就くことが許される、きわめて専門性の高い職業です。 医師になれば開業することもできるし、病院などの医療関連施設に勤務することもできますが、病院勤務の場合、その指揮監督下で労務を遂行することになります。この場合、医師は労働法上の労働者となり、労働法規の適用を受けます。
労働時間・時間外労働時間に関して、病院は労働法規を守って医師を管理・監督する義務があります。
労働に関する法律は様々ありますが、ご存じの通り、基本となるのは労働三法と呼ばれる3つの法律です。なかでも、労働基準法は労働条件に関する最低基準を定めた法律です。時代の変化とともに労働に関する法律は変わりますが、すべての基本はこの労働基準法にあります。
「医師の働き方改革」が施行される今、医療に関連する法律だけでなく、労働に関する法律に関しても知っておくべきでしょう。医大で行われた労働法のモデル講義のアンケート調査では、医学生の約9割が「労働法の講義は有意義だった」と回答しています。
労働基準法第32条では、下記のように労働時間が決められています。
・使⽤者は、労働者に、休憩時間を除き⼀週間について四⼗時間を超えて、労働させてはならない。
・使⽤者は、⼀週間の各⽇については、労働者に、休憩時間を除き⼀⽇について⼋時間を超えて、労働させてはならない。
それでは、働き方改革のキーである「時間外労働(残業)」は法律違反なのでしょうか。
法定の1日8時間・週40時間超える労働は、法律上「原則禁止」なのですが、労使で合意した36協定(サブロクきょうてい)を締結すれば、例外としての残業が許されています。さらに、特別条項を設けることで、これまでは上限なしの時間外労働も可能となっていました。罰則による強制力がなかったからです。
2019年の法改正で、いかなる事情があっても上回ることのできない、罰則付きの上限が設けられました。この上限規制は一般企業ではすでに施行されていますが、5年遅れで2024年4月1日から医師にもこの時間外労働時間の上限規制が適用されます。医師の長時間労働に依存してきた医療機関は、これまでの体制を見直し職場環境を変革することを迫られています。
ちなみに、医師の時間外労働時間の上限を超えた場合には、労働基準法141条により、医療機関に対して「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が適用されます。
日本の労働人口減少や低い生産性という社会状況を背景として、働き方改革が国家戦略となり、労働基準法や雇用対策法などの法律が改正されてきました。労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する「働き方改革」を推進するのがこれらの改正法です。
医療機関は今後、医師の副業も合わせた勤務実態の正確な把握が必要になりました。法規制にそった労務管理体制を見直さなければならなくなってきています。アルバイトの労働時間は医師の自己申告に基づいて、常勤している医療機関が、自院の労働時間とアルバイト先の労働時間を通算して管理することが求められています。
そのため、勤務医はアルバイト先の労働時間を常勤先に自己申告しなければいけません。
日本の医療は診療時間外や休日にも業務を行う、献身的な医師の長時間労働に支えられてきました。医師の労働条件は他の職業に比べて、はるかに厳しく、休日も少なく、過重労働です。
一般企業に5年遅れで始まった「医師の働き方改革」は、医師のワークライフバランスを改善してくれるのでしょうか。
ただし、今回の医師の働き方改革は残業度外視で働く勤務医にとっては注意が必要です。労働時間の上限規制によって、残業代込み年収から収入減になる医師も出てくることが考えられているからです。
特に、残業代込みの年収をもとにローンを組んでいる医師は、早急に対策を考えることをオススメします。
いかがでしたか?医師の働き方改革に合わせて、ご自身の働く環境や条件と向き合い、労働法についてもしっかり把握していきましょう。
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