ドクターコネクトの転職サポートでは大幅に年収が上がるケースが多い。しかし、せっかく年収アップしても、お金がたまらないという先生も多くいらっしゃる。
高所得であっても支出がそれを上回るのは、珍しいことではない。むしろその方が多い。収入が増えればそれに見合った生活をしてしまうからだ。
医師は高所得であるが、本人が働かないと得られない所得であり、長時間労働の代表格でもある。ただ働くだけではなく思い描く人生を実現するためには、お金と向き合い、プランを立てること。
不労所得を得られる仕組みを作ってしまえば、サラリーマンであっても海外の企業上層部のように早期リタイアも可能だろう。
お金は道具、では何を目的にすれば良いのか。グローバルサポートのCOOである中村公一氏にお話を伺った。人生の選択肢が大いに広がる考え方とは。
Profile
GLOBAL SUPPORT LIMITED 最高執行責任者
中村 公一(Koichi Nakamura)氏
2006年にGLOBAL SUPPORT LIMITEDを設立。現在は香港・上海・バンコク・台北・東京・埼玉に拠点を構え、約5,000名の会員組織を運営。金融専門職の方から中学生までを対象に年間150回以上の講演実績を持つ。真の経済教育の普及を通じ、健全な社会発展や多くの方の幸福実現に向けて邁進中。
──ドクターコネクトの会員の方は、転職によって大幅に年収がアップした方が多いのですが、年収が上がったことをきっかけにして、ご自分の資産について考え始めたという方が多くいらっしゃいます。貴社でも医師からのご相談が多いと伺いました。
中村 COO
医師の方もたくさんいらっしゃいます。ご相談をいただいて思うのは、時間とお金の関係性を理解されている方が少ないということです。
忙しくて自由になる時間がなく、海外旅行にもなかなか行けない、買い物が一番の楽しみ、とおっしゃる方も多いです。特に勤務医の方ですね。それは労働収入に偏っているからなんです。
医師の方は仕事で社会に貢献し、自らの労働でその対価を得ています。しかし、資本主義制度ではお金を必要としている人に資本を提供して、その人に稼いでもらって財をわけてもらうということもできるんです。
これからは、「自分で働く」「人に働いてもらう」この2つのハイブリッドでいかないといけません。特にこれから少子高齢化になっていく日本では尚更ですね。
──香港をベースにビジネスを展開していらっしゃると伺いました。いつから、香港でお仕事をなさっているのですか。
中村 COO
私は26歳で香港の金融機関に就職しました。その頃、香港では年金制度「MPF」が導入されました。MPFは確定拠出型の年金制度で、全ての企業に加入が義務づけられたのです。
毎月の給与のおよそ10%を投資信託で積み立てることを強制化して、65歳まで解約してはいけないというものです。私にとって、これは衝撃的な出来事でした。
──香港の人たちは、強制的に10%を投資にまわされることに反発しなかったのですか。
中村 COO
たいへんな反発がありました。当時はちょうど、2000年、IT バブルが崩壊した年で、景気も良くありませんでした。給与の10%を強制的に積み立てなければならないわけですが、その内訳は労使5%ずつ。企業にとっても社員にとっても厳しいものです。
でも、香港は強引にこの制度を導入しました。そういう強引さがあるのが香港やシンガポールで、民主主義でないところの良い点かも知れません。
──香港はイギリスの影響を強く受けている土地ですよね。
中村 COO
香港はこういう強制積立年金を導入したのですが、これは「ゆりかごから墓場まで」(※1)というスローガンで知られているイギリスの社会保障政策が背景になっています。
共産主義が台頭する時代の中で、資本主義経済のイギリスは、資本主義の歪みである「格差」の問題にぶつかり、社会保障というセーフティネットを作ってきた歴史があります。
ところが社会保証制度を充実させ過ぎた結果として、社会保障負担の増加と国民の勤労意欲低下が起きてしまいました。「英国病」と言われた1960年代のイギリスです。またイギリスも少子高齢化が進んでいるので、賦課方式で現役世代に頼るのには限界が出てきます。
そこで賦課方式の年金を削減する方向にシフトしました。当然、国民は将来困りますよね。そこで自分の将来のために積立していく、積立方式の年金制度を推進することを決めたのです。
──香港の人は65歳までおろすことができないのですね。
中村 COO
そうです。これは、今日明日で株価が上がった下がったというような目先の話ではないんですね。毎日、井戸を少しずつ掘り続ける感じと言えば良いでしょうか。いつか自分が働けなくなる日に備えて、他者に働いてもらう仕組みを作っていくということです。
香港はイギリスを手本にして、そういう制度を作り上げたのです。教育もしっかりしていて、小学校から投資に関する教育をしています。
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※1「ゆりかごから墓場まで」
国が国民の生活を「生まれてから死ぬまで」支える保障を目標としたイギリス社会保障制度のスローガン。第二次世界大戦後、労働党政権がその実現をめざした福祉社会制度。日本を含めた各国の社会福祉政策の指針となった。
──投資の教育では、子どもたちはどのようなことを学ぶのですか。
中村 COO
基本的には、預金・株式など、それぞれの特徴を勉強していきます。銀行に預けられたお金は、個人への住宅ローンや企業への融資として貸し出しされている、とか、個人や企業は働いて銀行に利息と元本を返済していく、だから預金には利息がつく、という当たり前のことから学び始めます。
そして、預金は銀行が仲介するのでリターンも低くなるが、直ぐに現金化もできるし、貸出先が潰れても銀行が潰れない限り元本や利息が守られる。すなわち間接金融の仕組みを学びます。
そうなるとリスクが取れて高いリターンを期待するのであれば、銀行を通さないで直接貸せばいいじゃないかとなり債券、更に、貸すより出資したほうがいいのではと株式を学んでいくんです。
結局のところ、自分で働いて得た収入の一部を預金・債券・株式を通じて提供することで、世界の企業で働く従業員が生み出した利益の一部をリターンとしてもらえる。
預金も株式も債券も、特徴を理解して利用することが大事です。このような投資教育は、ひいては、社会への貢献の仕方も学べるのです。
こういう勉強をしておかないと折角のお金が、活用されず眠っているだけになったり、ひょっとしたら他者のために活用されてしまいます。
──「金融のしくみ」を勉強することは必要ですか。
中村 COO
金融よりはまず、経済の勉強からしていただけたらと思っています。経済の勉強に派生して出てくるのが金融とか投資。そう言う順番ですね。
経済はもともと「経世済民」という言葉から来ています。つまり「世をおさめ民を救う」のが経済学なんです。「経世済民」という考え無しに、今、日本では投資教育が行われています。
そうすると、投資は単なるマネーゲームになってしまう恐れがあります。株が上がった下がった、儲かった損した、というギャンブルになってしまう。株式投資は誰かに資金を活用してもらうことで社会に貢献する、という意識を持たないとギャンブルになってしまうんです。
そうなってしまうと、ただ損をしたくない人は、銀行に預金するだけになります。しかし、銀行にしてみると、預金されると利払いや管理コストが掛かる。だから貸し出すのですが、貸し出しても収益は低いし、また安易に貸し出すこともできない。だからといって日銀に預けたらマイナス金利になる。
すなわち現時点においては預金してもらっても銀行は喜ばない。人を喜ばせていないから銀行預金の金利も低いんです。お金を稼ぐなら、人を喜ばせないとだめですね。
──「人を喜ばせる」とはどういう意味ですか。
中村 COO
まず一つは、人が出来ないことを代わりにしてあげるということです。私たちの仕事などは、そうですね。私たちが持っている知識と経験を基に、クライアントの問題を解決してあげて、喜んでいただく。
物々交換の延長なんだと思います。物々交換は双方が喜ぶことがベースになっています。医師も知識と技術を基に困っている人を助けて、喜んでもらうことでお金をいただいてますよね。
ただ、本業ではこういう感覚を持っていても、なかなか投資では意識しにくい方もいらっしゃいます。あくまでも交換。お互いに「ありがとう」の関係性がないと、進まないんです。
──忙しくて時間がない、というような人が経済の勉強をするのは大変では?
中村 COO
社会の一員として、経済の基本は知っておいていただきたいです。加えて、社会全体のことも。良いか悪いかは別にして、私たちは民主主義を採用した国家の中で生きています。政治家を選ぶ権利を持っている。権利は、責任とセット。社会のことを理解して政治に参加するという責任があるんです。だからこそ政治と経済の関係についても勉強していただきたいです。
そして、経済を勉強する際は財務諸表を見るとか、株主総会に出るとか、そういうことは必要ありません。社会の仕組みを理解し、基本的な考え方を身に付ければ良いので、1日15分、半年くらい勉強すれば大丈夫です。そうやってスキマ時間を活用している医師の方もいらっしゃいます。
──医師が資産運用を考えるときに、気をつけなければならないことは。
中村 COO
医師には良からぬ輩(笑)が集まってくるのも事実です。お金を持っている人に集まってくる人には気をつけた方がよいですね。慎重な方でも、先輩医師に勧められたからと悪質な話に乗ってしまうケースもあるようです。
例えば不動産投資で失敗している方もいます。投資する際には、資本提供しながら何をしなくてはいけないか、ということも考えていただきたいと思います。
賃貸不動産であれば、そこに住んでいる人に働いてもらわないといけません。経営者(管理者)に管理してもらわなくてはいけないんです。それらを全部考えたうえで、投資をすること。例えば、変な住人が現れたり、管理者が酷ければ、価値が下がってしまうこともあります。
不動産投資では利回りを重視する方がいますが、もし売り手が悪い人だったら、自分の知り合いを入れて、相場より高い家賃で住まわせて利回りの良い物件として売却、売却が終わったら知り合いが出ていくから、その物件は低い利回りになってしまう。そんな酷いこともあります。
投資をする際には、社会の汚い部分と綺麗な部分の両方を知って欲しいと思います。
──不動産投資は勉強する機会がない方が多いと思います。不動産は悪い面ばかりですか?
中村 COO
いわゆる良い物件というのは、原則、市場には出て来ません。なぜなら、不動産会社は本当に良い物件は仲介しないからです。
私のクライアントには不動産業の方もいらっしゃいますが、彼らは良い物件だったら他人に売らないで自分で投資し、それを転売して利益をあげます。そういう事情を分かったうえで、不動産投資をしなくてはいけません。
もちろん不動産投資には良い面も沢山あります。その一つは「家賃の粘着性」です。というのは、株も債券も下がるような局面では不動産価格も下がる、しかし家賃収入はそれほど変わらないんです。
例えばリーマンショックの時、株・債券共に下がり、不動産価格も一時期は半分くらいにまでなりました。しかし家賃収入は暴落前と変わらない、つまり家賃リターンが2倍になったということです。
しかも一般的な経済危機の時、金融政策で金利が下がると、債券利回りとかも下がってきますので、全体的に金融資産の魅力は下がる。その中で不動産は、お金を借りやすくなるので新たな資金が戻ってきやすいという側面もあります。
──新型コロナによる景気後退で、不動産オーナーはテナントからの支払い能力の低下に困っているようですが。
中村 COO
そうですね。でもそれは一部です。全体から見るとそうでもない。だから、分散投資が必要なんです。一つだけで見ると、事故物件が出たら終わり、ということもあるからです。
──では、資産運用の始めの一歩は何でしょうか。
中村 COO
まずは株式と債券などの金融資産です。そして、ある程度の資金力ができてから不動産という順です。
そして始めるに当たって知っておいていただきたいのは、資産運用には全勝はなく、必ず失敗があるということです。仮に全勝している方がいたら、その方は危険かもしれません。だから全勝を目指さずに、失敗を前提としながら大やけどをしないように工夫する必要があります。
その点で、不動産投資は金額が大きいので失敗すると身動きがとれなくなってしまう。なので、少額から始められる金融資産から始め、成功と失敗を経験し、学んでいくことが大切です。
そして、その際にお勧めするのは毎月の積み立てです。勤務医の方はiDeCoが良いと思います。iDeCoへの積立金は60歳以降まで解約できないのですが、課税所得から控除されるので、それだけでもお得です。
──独立開業する場合に、何か検討することはありますか。
中村 COO
開業したときは、小規模企業共済への加入をお勧めします。最高毎月7万円で全額課税所得控除されます。しかも、加入期間にもよりますが国が1%のリターンを保証してくれます。課税所得が1,000万円以上の人の節税効果を考えたら、年利回りで6%を超えます。
これは、クリニックが大きくなってからは申し込みできません。年間84万円が控除できて安定運用され、しかも困った時には借入もできます。
公的保険は販売手数料がないため、民間保険と違って積極的に案内してくれる人が少ないので注意してください(笑)。だからこそ、公的保険はご自分で勉強しないとだめです。
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小規模企業共済制度とは
小規模企業の個人事業主または会社等の役員の方が事業をやめられたり退職された場合に、生活の安定や事業の再建を図るための資金をあらかじめ準備しておく共済制度で、経営者の退職金制度といえる。
──資産運用では失敗することもあるということですが、慎重な方からは「守りながら増やしたい」というご要望もあるのでは?
中村 COO
何が『守り』なのかを理解しないといけません。預金・債券・株式、全てにリスクがあり、時には株式が『守り』になることがあります。
例えば預金は元本保証、しかもペイオフがあるので1,000万円までの預金はリスクがなく、『守り』のイメージが強いと思います。しかし預金の『元本保証という利益』の裏側には物価上昇リスクが含まれていることを忘れてはいけません。
日銀は年2%の物価上昇を目標にしながら、マイナス金利政策をとっています。仮に達成したら、単純計算で10年で20%くらい資産価値が目減りするということになります。
一方で、株式は価格変動リスクが高い代わりにリターンも期待できるので『攻め』のイメージが強く、『守り』とは程遠い感じがあります。しかし、物価上昇時には株価も上昇するので、物価上昇リスクに対しては『守り』の役割を果たすことになります。
すなわち、本気で資産を守ろうとしたら、攻めと守りのバランスが必要となるのです。
──転職で収入が上がった方でも、支出も増えてしまうケースが多いですが。
中村 COO
イギリスの歴史・政治学者のパーキンソン氏が書いた本の中に「パーキンソンの法則」(※2)があります。そのひとつに、「収入が上がると支出も上がる」というのがあるんですね。いつまでたっても、お金に苦労する方が多いのはこういうことなのだと思います。
しかし、それは仕方ないことでもあります。お金というのは使って初めて価値があるので使いたくなるもの。でも、今使うお金とは別で、子どもの教育資金、開業資金、老後資金、次の世代に残すお金、そういうものは強制的に天引きをしていくことをお勧めします。
天引きして残ったお金でやりくりする習慣が重要です。
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※2「パーキンソンの法則」
第1法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する
第2法則:支出の額は、収入の額に達するまで膨張する
──将来を考えての資金を増やしていくという考えですが、どのくらいの期間を考えて計画を立てれば良いのでしょうか。
中村 COO
「お金の流れが変わるまで」ですね。すなわち資産と負債のバランスで、資産が負債を超えるまでです。「金持ち父さん貧乏父さん」を読まれた方はお分かりだと思います。食費・家賃・教育費など、一般的に私たちは負債の方が大きい。新型コロナで自粛になって、家で何もしないでいるとお金が減ってしまう人がほとんどなんですね。
では、どうすべきかというと、資産を増やし続けることです。資産と負債のバランスで、資産が負債を超えれば、あとは働かなくてもお金が入ってくるようになります。だから資産が負債を超えるまで資産を増やし続けるだけなのです。
一つ知っておいていただきたいのは、実際にお金の流れが変わるまでは、その凄さに気づけないということです。そして、お金の流れが変わるまでの作業は、自分の代で完成できない可能性もあります。でも医師の方は、収入が大きいので本気で取り組めば完成できると思います。
──資産計画は、損益分岐点のように計算してプランをたてられるのですか?
中村 COO
はい、資産については、リスク管理と期待リターンを用いながらどう増やしていくかを検証します。同時に負債の管理も大事です。計画が具体的に見えれば、やる気が出てくるものです。ご興味のある方は個別にご相談ください。
──最後にドクターコネクトの会員医師に向けてメッセージをいただきたいです。
中村 COO
一番始めに申し上げたように、まず、「時間の使い方」を意識することが大切です。知識や人脈、そしてお金は増やせますが、時間だけは増やせません。そして我々の人生とは死ぬまでの時間です。だから「時間」が最も大切な資産です。
次に「人生の目的」を明確にしておいていただきたいと思います。お金はあくまでも幸せになるための道具です。お金を稼いだがために不幸せになってしまう一番の原因は、明確な目的がないままに、お金を手にしてしまうことにあります。
自由診療に転職なさった医師の方は、将来についてお考えになる良い機会だと思います。是非、考え方をリセットして「時間の使い方」「人生の目的」について改めてお考えいただきたいです。